震災復興とはどういうことなのだろう。
内陸ではありながらも岩手県に暮らし、3.11の震災を経験した者として、この言葉が先走っていく現状にはぬぐいきれない違和感があった。それは、震災から時を経るごとに大きくなっていったように思う。
理由は単純に、こうした聞こえの良い言葉とは裏腹に僕たちはどこを目指すのか、自分たち自身も正直わかっていなかったにもかかわらず、さも「知ったような顔」をしていたからなのだろう。人生なんてものは簡単に目標や目的を定められるものではない。僕たちは生きた鏡のようなもので、世界の様々な状況を映しながら、常に変わり続けている。ある意味、目の前の現実に対して、ときに大胆に、またあるときは慎重に対症療法を続ける行為にも近いと感じる。
それが震災の前では「震災復興」という聞こえの良い標語のような言葉に僕たちの目標が置き換えられた。それが、僕がずっと抱くことになった違和感だった。
でも、大地に杭が打たれる姿からはじまり、大きな鉄の柱や桁が設置され、長い時間と多くの人の手によって、ひとつの建物が立ち上がっていく様子は、津波に流された土地が新たに生まれ変わることができることを、僕に示してくれた。それは、震災復興などというさらりとした熱のない言葉では言い表せない、街と人が生み出すダイナミズムそのものだったと思う。
この写真集は、釜石という土地でTETTOという建物が人の知恵と手の力によって生まれることを記録したものだ。と同時に、自然災害を経験した人たちが、どのようにして文化や芸術という人間の心の拠り所を取り戻していくかという物語にも似た記憶でもあると、震災からちょうど十年を経た今は感じている。
「釜石市民ホール TETTO」の工事の始まりから終わりまで、そして完成の瞬間や現在の日常、釜石の風景を、写真家・奥山淳志が捉えた。建築家の頭のなかで構想され、多くの人の手と物によってつくられ、やがてまちの風景となっていく。6年にわたる膨大な記録。
判型|225×290mm/272ページ[写真約250点]/スリーブケース付
価格|12,000円[税別] 限定300部
発売|millegraph
ISBN978-4-910032-01-6
購入希望・問合せ|mya@aatplus.com https://www.aatplus.com/